謝 海鷹(I100 メディカルサイエンス研究所主任研究員)
はじめに
Lactobacillus属(いわゆる乳酸菌)を中心としたプロバイオティクスは、近年、腫瘍予防および治療の補助として注目を集めているpmc.ncbi.nlm.nih.gov,mdpi.com。プロバイオティクスとは「適切な量を投与することで宿主に健康上の利益をもたらす生きた微生物」と定義されmdpi.com、腸内フローラの改善や免疫調節作用を通じて多方面の健康効果を示すことが知られるpmc.ncbi.nlm.nih.gov,pmc.ncbi.nlm.nih.gov。特にLactobacillus属(乳酸菌)やBifidobacterium属は食品由来や腸管常在菌として広く研究され、安全性も確認された代表的なプロバイオティクスであるpmc.ncbi.nlm.nih.gov,pmc.ncbi.nlm.nih.gov。本稿では、過去5年間に発表された英語論文を主な情報源とし、Lactobacillus属の複数菌株からなるプロバイオティクスが、がんの予防および治療にどのように作用するかを総括する。分析にあたって、効果発現の主因を (1) プロバイオティクス菌体そのものの作用、(2) プロバイオティクス菌由来の細胞外小胞(extracellular vesicle; EV)の作用、(3) 乳酸菌が分泌するサイトカイン様・ホルモン様分子(いわゆるポストバイオティクス)の作用に分類・比較し、各機序の代表例と実験モデル、および研究結果を概説する。pmc.ncbi.nlm.nih.gov,ijm.tums.ac.ir
プロバイオティクスの抗がん作用メカニズムの概観
プロバイオティクスによる抗腫瘍効果は多機構的であり、以下の3つに大別できるpmc.ncbi.nlm.nih.gov,pmc.ncbi.nlm.nih.gov。
- (1) プロバイオティクス菌体そのものの作用: 乳酸菌などプロバイオティクス菌が腸管などで定着・増殖し、腸内細菌叢の構成や代謝を健常化することで発がんリスクを低減する。例えば有害菌との栄養・定着競合や有害菌産生酵素活性の低下、腸管バリア機能の強化、免疫系の調節などが挙げられるpmc.ncbi.nlm.nih.gov,pmc.ncbi.nlm.nih.gov。菌体表面のパターン認識分子(ペプチドグリカンやタイコ酸など)を介した粘膜免疫刺激や、腫瘍組織内における腫瘍関連免疫細胞の活性化もこのカテゴリーに入るgutmicrobiotaforhealth.com,frontiersin.org。複数菌株を組み合わせることで腸内フローラ全体の恒常性維持に相乗効果をもたらす可能性がある。
- (2) 細胞外小胞(EV)による作用: 乳酸菌を含む細菌は、数十~数百nm大の膜小胞(エクソソーム様小胞)を放出し、タンパク質やRNAなどを運搬するijm.tums.ac.ir。プロバイオティクス由来EVは、腸管上皮や免疫細胞に取り込まれ細胞内シグナル経路を調節することが報告されているijm.tums.ac.ir,ijm.tums.ac.ir。近年の研究で、Lactobacillus rhamnosus GG由来EVが大腸がん細胞の増殖抑制効果を示し、がん予防への応用可能性が示唆されたijm.tums.ac.ir。EVは生菌を投与せずに効果を発現できるポストバイオティクスの一種として、新規治療戦略になり得る。
- (3) 分泌分子(サイトカイン様・ホルモン様分子)による作用: プロバイオティクスは乳酸や酢酸・酪酸などの短鎖脂肪酸(SCFA)、殺菌物質(バクテリオシン、過酸化水素など)、アミノ酸代謝物(インドール類、ポリフェノール変換物質)等、多様な代謝産物を産生するnature.com。これらは腸管局所あるいは全身へ吸収され、宿主の細胞増殖や免疫系にシグナル伝達しうる。例えば乳酸菌由来ヒスタミンは宿主のH2受容体を刺激して腸炎を抑制し、結果的に大腸の発がんを抑えることが示されたgutmicrobiotaforhealth.com,gutmicrobiotaforhealth.com。またL. casei由来のフェリクロームはがん細胞のアポトーシス誘導物質として作用し、試験管内やマウス腫瘍モデルで抗腫瘍効果を示しているspandidos-publications.com,spandidos-publications.com。こうした分泌因子はサイトカイン様またはホルモン様に働き、プロバイオティクスの主要な効果媒介分子と考えられるpmc.ncbi.nlm.nih.gov。
以上の3機序は相互に関連し、一つのプロバイオティクス処置で複数の経路が同時に関与する場合も多い。本稿では、がん種ごとに予防効果と治療効果を分け、各機序の代表的な知見を紹介する。
プロバイオティクスによるがん予防効果
大腸がんの予防
大腸がん(結腸直腸がん)は腸内環境との関連が特に深く、乳酸菌プロバイオティクスによる予防効果が数多く報告されている。腸内フローラの乱れ(腸内細菌叢のディスバイオシス)は炎症と発がんリスクを高める要因であり、乳酸菌を含むプロバイオティクスはこれを是正する様々な作用を持つpmc.ncbi.nlm.nih.gov,pmc.ncbi.nlm.nih.gov。例えば、プロバイオティクス摂取により発がん性物質の腸内生成を減少させることができる。具体的には、あるヨーグルト製剤をマウスに与えた実験で、大腸内容物中のβ-グルクロニダーゼやニトロリダクターゼ(発がん物質前駆体を生成する腸内酵素)の活性低下が確認されたpmc.ncbi.nlm.nih.gov,pmc.ncbi.nlm.nih.gov。またGoldinらの古典的研究では、L. acidophilusの経口投与によりヒト被験者の糞便中のβ-グルクロニダーゼ等の酵素活性が有意に低下し、投与中止後は元に戻ったと報告されているpmc.ncbi.nlm.nih.gov,pmc.ncbi.nlm.nih.gov。このように腸内細菌代謝の改変(カテゴリー1の作用)は、大腸がん一次予防の重要なメカニズムと考えられる。
さらに、プロバイオティクスは腸粘膜の免疫バランスと炎症抑制を通じても発がん抑制に働く。乳酸菌は腸管上皮のタイトジャンクションを強化してバリア機能を高めるほかmdpi.com、腸管免疫で抗炎症性サイトカイン(IL-10等)の産生を促し慢性炎症を鎮静化するgutmicrobiotaforhealth.com。実際、ヒスタミン産生能を持つL. reuteriをマウスに投与した研究では、腸炎誘発性の大腸腫瘍モデルにおいて腫瘍数とサイズの顕著な減少が認められたgutmicrobiotaforhealth.com,gutmicrobiotaforhealth.com。これは乳酸菌由来ヒスタミンが上皮細胞上のH2受容体を刺激し、炎症性サイトカイン(IL-6やIL-22など)の産生を抑制することで慢性炎症と発がんを抑えたためと考察されているgutmicrobiotaforhealth.com,gutmicrobiotaforhealth.com。この例は菌の代謝産物(カテゴリー3) による予防効果の好例である。
プロバイオティクス多菌株の具体例として、商用混合プロバイオティクス製剤VSL#3(8菌株を含む乳酸菌・ビフィズス菌混合物)の予防効果が知られる。VSL#3を投与したマウスでは、潰瘍性大腸炎から腫瘍への進行遅延や、腫瘍細胞におけるCOX-2発現抑制が報告されているpmc.ncbi.nlm.nih.gov,pmc.ncbi.nlm.nih.gov。またヒトを対象とした前向きコホート研究(EPIC研究)では、乳酸菌発酵乳製品(ヨーグルト)摂取量の多い群で大腸がん発症リスクが有意に低いことが示されたmdpi.com。ヨーグルト1日2杯の摂取は結腸がんリスクを約20–40%低減したとの報告もあり、日常的プロバイオティクス摂取の予防効果が示唆されるsciencedirect.com。総じて、大腸がん予防においてはプロバイオティクス菌体そのものが腸内環境を整える作用(カテゴリー1) と、菌が産生する抗腫瘍性代謝物(カテゴリー3) の寄与が大きく、さらに菌由来EV(カテゴリー2) も細胞レベルでは増殖抑制効果を発揮することが示されているijm.tums.ac.ir。
乳がんの予防
乳がんについては、近年「腸内細菌叢‐乳房軸」の概念が注目されている。すなわち、腸内フローラが全身の炎症状態やエストロゲン代謝に影響を与え、乳腺の発がんリスクに関与し得るという視点であるmdpi.com,mdpi.com。乳酸菌を含むプロバイオティクスは腸内環境を改善しエストロゲンの腸肝循環を調節する可能性がある。具体的には、一部の腸内細菌はエストロゲン抱合体を脱抱合するβ-グルクロニダーゼを産生するため、ディスバイオシスでエストロゲン再循環が増えるとホルモン依存性乳がんのリスクが上がると考えられるpmc.ncbi.nlm.nih.gov,pmc.ncbi.nlm.nih.gov。乳酸菌によるこれら有害酵素活性の低下は前述の通り確認されており、大腸がんのみならず乳がんの予防にも寄与し得るpmc.ncbi.nlm.nih.gov,pmc.ncbi.nlm.nih.gov。実際、L. caseiシロタ株(ヤクルト菌)と大豆イソフラボンを含む飲料の長期摂取試験で、乳がん発症抑制効果が示唆されたとの報告もあるfrontiersin.org。日本人女性を対象とした研究では、乳酸菌飲料の摂取と乳がん発症率の逆相関が観察されているonlinelibrary.wiley.com。またマウス乳がんモデル研究では、L. reuteriの経口投与によって乳房組織の前がん病変形成が抑制され、上皮細胞のアポトーシス感受性が高まったことが示されたfrontiersin.orgfrontiersin.org。これはプロバイオティクスによる免疫監視機能の賦活(カテゴリー1)および抗増殖シグナルの遮断によるものと推定されているfrontiersin.org。実際、L. reuteri投与群ではCD4⁺CD25⁺制御性T細胞の活性化や腫瘍細胞内のc-JunおよびNF-κB経路の抑制が認められたfrontiersin.org。さらに別の研究では、乳酸菌発酵乳の摂取により抗炎症サイトカインIL-10が上昇し炎症性サイトカインIL-6が低下して、乳がん細胞増殖の抑制に繋がったと報告されているfrontiersin.org。以上より、乳がん予防では全身性の免疫調節(カテゴリー1) と 腸内代謝改善(カテゴリー3) が主な機序と考えられる。なお 菌由来EV(カテゴリー2) に関する直接的データは未だ限られるが、乳酸菌由来成分がエストロゲン受容体や発がん経路に与える影響についての研究が進められている。
肺がんの予防
肺がんに対するプロバイオティクス効果の知見は大腸・乳がんほど多くないが、腸‐肺軸(gut-lung axis) の観点から予防的役割が示唆されている。すなわち、腸内の乳酸菌など善玉菌叢が全身の炎症状態を低下させ、肺組織での腫瘍形成リスクを下げる可能性があるtandfonline.com。例えば、プロバイオティクスによる腸管バリア強化で血中エンドトキシン(LPS)負荷が軽減すれば、慢性的な全身炎症が抑えられ発がんの土壌が弱まると考えられるnature.com,nature.com。事実、動物研究で腸内細菌叢を抗生物質などで撹乱すると、肺がん発症率や進展が影響を受けることが報告されている pmc.ncbi.nlm.nih.gov。乳酸菌を含むプロバイオティクス投与による直接的な肺がん発症抑制データは限られるものの、免疫チェックポイント阻害剤による肺がん免疫療法の効果が腸内細菌叢組成と相関するとの報告があり、AkkermansiaやLactobacillus属の豊富な患者で予後が良好だったというtandfonline.com。これらはプロバイオティクスによる全身免疫環境の調節(カテゴリー1) が肺がん予防にも寄与し得ることを示唆する。なお喫煙や大気汚染といった主要因に対して直接作用するデータは無いが、慢性気道炎症の軽減など間接的な保護効果が期待される。
膵臓がんの予防
膵臓がん(膵癌)は発症要因の解明が難しく予後不良ながんであるが、近年、腸内細菌叢との関連性が示唆される研究が増えているnature.com。膵臓は本来無菌に近い環境だが、腫瘍組織から腸由来の細菌DNAが検出されることが報告されており、特にProteobacteria門(グラム陰性菌)の定着が膵腫瘍の免疫寛容状態を悪化させるとされるnature.com。プロバイオティクスの予防的アプローチとして、腸内環境の改善を通じて膵発がんリスクを下げる試みがなされている。例えばマウスモデルでLactobacillus菌投与により慢性膵炎が軽減し、膵発がんの抑制につながったとする報告があるpmc.ncbi.nlm.nih.gov。またL. rhamnosus GGにガリウム化合物を結合させた改変プロバイオティクス(LGG@Ga-poly)を予防投与した研究では、マウス膵がんモデルで腫瘍内の有害菌(Proteobacteria)の減少と腫瘍発生の抑制が確認されたnature.com,nature.com。同投与群では、腫瘍細胞による炎症性サイトカインIL-1βや免疫抑制分子PD-L1の発現低下、そして抗腫瘍T細胞の浸潤増加といった免疫環境の改善も見られておりnature.com,nature.com、腫瘍微小環境からの予防的介入が実現可能であることを示している。これらは主として菌体そのものによる免疫・微生物叢調節作用(カテゴリー1)に分類できるが、加えて菌由来物質(カテゴリー3)も膵がん予防に応用可能なことを示唆する。例えば、前述のL. casei由来フェリクロームは大腸・胃のみならず膵腫瘍細胞にも増殖抑制効果を示しており、将来的に経口ワクチン様に予防投与する戦略も考えられるspandidos-publications.com,spandidos-publications.com。
血液がん(白血病・リンパ腫等)の予防
白血病やリンパ腫など血液悪性腫瘍の発症と腸内共生菌の関連についても、最近になり研究が進んできたmdpi.com,mdpi.com。腸内細菌が産生する代謝物は骨髄の造血幹細胞にも影響を及ぼし得る。あるマウス研究では、腸内菌叢から乳酸菌(L. reuteri)が逸脱・移行することで免疫が活性化され、骨髄造血が亢進して前白血病状態を誘導するという報告があり、この現象が白血病発症を促進しうることが示唆されたmdpi.com,mdpi.com。一方で、プロバイオティクスの補充が白血病の進行を抑制するデータも存在する。たとえば、ある急性リンパ性白血病(ALL)モデルマウスでは腸内のLactobacillus属が著減していたが、乳酸菌(L. reuteri)とプレバイオティクス(食物繊維)の投与によってLactobacillus属が回復し、有害菌が減少すると、生存期間が有意に延長したmdpi.com,mdpi.com。その作用機序として、プロバイオティクス投与により腸管バリア関連タンパク質(ゾヌリン、ムチンなど)の発現が増加し腸粘膜の健全性が保たれたことや、酪酸など短鎖脂肪酸の産生増加が認められたことが報告されているmdpi.com,mdpi.com。酪酸は免疫調節とアポトーシス誘導作用を持つため、白血病細胞増殖の抑制に寄与した可能性があるmdpi.com。リンパ腫に関しては、遺伝的に腫瘍発症リスクの高いモデル(毛細血管拡張性失調症A-Tモデルマウス)で顕著な知見がある。野生型マウスに比べA-Tモデルでは腸内Lactobacillus johnsoniiが欠如しており、これが全身の酸化ストレスとDNAダメージの増加に関与していたmdpi.com,mdpi.com。そこで外部からL. johnsoniiを短期間投与したところ、マウス体内のDNA損傷指標が低下し、リンパ腫発生が有意に減少したと報告されているmdpi.com,mdpi.com。この結果は「ある特定の乳酸菌の不足がリンパ腫発症を促進し、その補充で発症を減らせる」ことを示しており、プロバイオティクスによる発がん一次予防の可能性を支持する。以上より、血液がん領域でも菌体そのものの免疫・代謝調節(カテゴリー1)と代謝産物(カテゴリー3)が予防に関与すると考えられる。ただし臨床応用に際しては、血液がん患者は化学療法による高度免疫抑制下に置かれることが多く、生菌プロバイオティクスは感染症リスクに注意が必要であるpmc.ncbi.nlm.nih.gov。したがって、生菌を用いずに有用代謝産物のみを投与するポストバイオティクス療法や、菌を加熱不活化(パラプロバイオティクス) して用いる手法など、安全性に配慮した戦略が検討されている。
以上、各種がんの予防段階において、乳酸菌プロバイオティクスは多面的に有用である可能性が示された。次に、がん治療(既発がんへの介入) における効果と機序について、同様に各がん種ごとに概説する。
プロバイオティクスのがん治療(補助療法)効果
大腸がんの治療への応用
大腸がん治療において、プロバイオティクスは補助療法として用いることで化学療法の副作用軽減や抗腫瘍効果増強が期待されているpmc.ncbi.nlm.nih.gov,pmc.ncbi.nlm.nih.gov。近年の前臨床研究では、Lactobacillus属を含むプロバイオティクス混合物の経口投与がマウス移植腫瘍モデルにおいて腫瘍増殖を抑制することが示されたjgo.amegroups.org,jgo.amegroups.org。たとえば、L. acidophilus, L. plantarum等とBifidobacterium属を含む多菌株プロバイオティクスをマウスの移植結腸がんモデルに21日間投与した実験では、投与群で腫瘍体積が有意に縮小し、腫瘍組織内におけるアポトーシス細胞の増加とCD8⁺T細胞の浸潤増加が観察されたjgo.amegroups.org,jgo.amegroups.org。免疫組織学的解析ではCTL(細胞傷害性T細胞)浸潤の増強と腫瘍細胞のアポトーシス促進が確認されており、プロバイオティクスが腫瘍免疫を活性化したことが示唆されるjgo.amegroups.orgjgo.amegroups.org。この作用には、腫瘍微小環境におけるマクロファージや樹状細胞の再プログラム(M2マクロファージからM1への誘導など)も関与すると考えられる。
一方、in vitro(培養細胞)系でもプロバイオティクスは大腸がん細胞に対し直接的な増殖抑制効果を示す。上記マウスで効果を示したものと同じプロバイオティクス混合液を大腸がん細胞株(マウス由来CT26細胞)と共培養したところ、対照に比べ細胞増殖が有意に抑制されコロニー形成数が減少したjgo.amegroups.org,jgo.amegroups.org。加えて、創傷治癒アッセイや浸潤アッセイでは腫瘍細胞の運動性・浸潤能の著明な低下が示され、プロバイオティクス共培養が転移能抑制につながる可能性が示唆されたjgo.amegroups.org,jgo.amegroups.org。このような効果は、乳酸菌が産生する有機酸による培地pH低下や、乳酸菌から放出されるペプチド・過酸化物質ががん細胞のアポトーシス経路を刺激した結果と考えられるpmc.ncbi.nlm.nih.gov,spandidos-publications.com。
さらに注目すべきは菌由来の細胞外小胞(EV)の抗腫瘍効果である。2022年の報告では、L. rhamnosus GG由来EVを大腸がん細胞(ヒトSW480およびHT-29細胞株)に添加すると増殖抑制効果が認められたijm.tums.ac.ir。高用量EV(100 µg/mL)処理で顕著にがん細胞の生存率が低下し、がん胎児性抗原CEAの遺伝子・タンパク発現が上昇したと報告されているijm.tums.ac.ir。CEA上昇は分化誘導のマーカーとも解釈でき、EVががん細胞の増殖停止と分化を促した可能性がある。このようにプロバイオティクスEV(カテゴリー2)も将来的に経口ワクチン様の治療に利用できるかもしれない。ijm.tums.ac.ir
臨床面では、プロバイオティクス併用による化学療法副作用の軽減がエビデンスとして蓄積されつつある。大腸がん術後化学療法患者を対象にしたメタアナリシスでは、特定プロバイオティクス投与群で重篤な下痢や感染症の発生率が有意に低下し、QOL(生活の質)の改善も報告されたpmc.ncbi.nlm.nih.gov,pmc.ncbi.nlm.nih.gov。これらはカテゴリー1(菌体による腸内環境改善)の恩恵といえる。一方、抗腫瘍効果そのものに関してヒト臨床データは限られるが、腫瘍縮小効果のある細菌療法の概念(例:嫌気性菌を腫瘍内に集積させるバクテリアセラピー)は100年以上前から存在し、現代のプロバイオティクス研究で再び脚光を浴びているfrontiersin.org,frontiersin.org。大腸がん治療においても、プロバイオティクスは免疫チェックポイント阻害剤や分子標的薬との併用で効果増強が検討され始めておりnature.com,nature.com、今後のエビデンスの蓄積が期待される。
乳がんの治療への応用
乳がんに対してもプロバイオティクスの抗腫瘍作用が報告されている。前臨床研究では、乳酸菌摂取が腫瘍増殖の抑制や治療薬効果の増強に寄与しうることが示唆されるfrontiersin.org,frontiersin.org。Lakritzらのマウス実験では、ヒト乳がんを発症する遺伝子改変マウスおよび高脂肪食誘発乳腺腫瘍マウスのモデルにおいて、L. reuteriを含む乳酸菌混合物の経口投与が実施されたfrontiersin.org,frontiersin.org。その結果、乳房組織内の腫瘍発生が抑制され、組織学的にも初期の異型増殖巣が減少したfrontiersin.org。免疫学的解析では、投与群で腫瘍内の制御性T細胞やM2マクロファージが減少し、代わりにCD8⁺エフェクターT細胞やM1マクロファージが増加する傾向が見られたfrontiersin.org,frontiersin.org。また上述の通り、L. reuteriはがん細胞内の転写因子NF-κBやAP-1(c-Jun)の核移行を阻害しfrontiersin.org、細胞増殖シグナルを抑制する作用も確認されている。このようにカテゴリー1(菌体)およびカテゴリー3(分泌分子)を通じてマウス乳がんモデルの腫瘍増殖を抑える効果が明らかとなった。
他の乳酸菌でも報告がある。L. acidophilusの経口投与は乳がん移植マウスで腫瘍重量の減少をもたらし、腫瘍組織および血清中の抗炎症性サイトカインIL-10の上昇と炎症性IL-6の低下を誘導したfrontiersin.org。また、L. helveticusで発酵させた乳をマウスに摂取させた研究では、乳中のペプチドが免疫調節(IL-10↑、IL-6↓)を介して腫瘍細胞の増殖抑制に働いたとされるfrontiersin.org。培養細胞実験でも、いくつかのプロバイオティクス(EnterococcusやStaphylococcus由来のものを含む)が乳がん細胞株にアポトーシスと細胞周期停止を誘導したことが報告されているfrontiersin.org。さらに興味深いのは、腸内フローラを介したホルモン療法増強の可能性である。ある培養実験では、特定プロバイオティクスが抗エストロゲン薬タモキシフェンへの感受性を乳がん細胞で高めたと報告され、腸内細菌によるエストロゲン代謝調節が治療効果に影響し得ることが示唆されたendocrine.org。臨床的にも、プロバイオティクスを含む栄養介入が乳がん患者の代謝状態を改善し(肥満・脂質プロファイルの是正)mdpi.com,mdpi.com、炎症マーカーTNF-αの低下や術後合併症軽減に繋がったとの報告があるmdpi.com,mdpi.com。これらは直接的な腫瘍縮小効果ではないものの、患者の全身状態を整え標準治療の効果を引き出す上で有益である。総合すると、乳がん治療では菌体そのものが持つ免疫活性化・抗増殖作用(カテゴリー1) と、菌代謝産物による内分泌・炎症調節作用(カテゴリー3) が中心的役割を果たしているfrontiersin.org,frontiersin.org。他方、菌由来EV(カテゴリー2)は未検討だが、乳がん細胞に対するEVの影響も今後探索が期待される。
肺がんの治療への応用
肺がんに対してプロバイオティクスを直接用いる治療研究はまだ少ないが、免疫療法や支持療法の観点から有望な報告が出始めているtandfonline.com,mdpi.com。ユニークなアプローチとして、乳酸菌の気管内投与が挙げられる。2022年の研究では、マウス肺発がんモデルに対しL. rhamnosus GG(LGG)のエアロゾル吸入処置を行ったところ、肺腫瘍の発生数・体積が有意に減少したmdpi.com。この作用は、LGGが肺胞マクロファージなど局所免疫を刺激し、腫瘍微小環境内での免疫監視を高めた結果と考えられるmdpi.com,mdpi.com。実際、処置マウスの肺組織ではB細胞系マーカーであるJチェイン陽性細胞やIgA産生が増加しており、粘膜免疫の活性化が確認されたmdpi.com,mdpi.com。さらに腫瘍部位の制御性T細胞やM2マクロファージの割合低下、樹状細胞の成熟促進も報告されておりmdpi.com,mdpi.com、LGGの吸入が肺内免疫環境を抗腫瘍型に転換したと解釈できる。カテゴリーで言えば、生菌による局所免疫活性化(カテゴリー1) の好例である。
また、全身的なアプローチでは、腸内細菌叢を整えることで肺がん治療効果を高める可能性が注目される。免疫チェックポイント阻害剤(抗PD-1抗体など)の効果は腸内細菌叢に影響されることが報告されており、ある研究では抗生物質で腸内細菌を減少させた肺がん患者で免疫療法効果が低下したfrontiersin.org。逆に言えば、プロバイオティクスで有益菌を補うことが免疫療法効果を底上げし得る。実際、乳酸菌やビフィズス菌を含むプロバイオティクスを投与したマウスで抗PD-1療法に対する腫瘍縮小効果が向上したとの報告もあり(他腫瘍での研究だが)tandfonline.com、肺がんにも応用可能と期待される。さらに最近の臨床研究では、進行肺がん患者113名に栄養療法とプロバイオティクスを併用したランダム化試験が行われ、3週間の投与で腸内環境の改善と肝機能指標(ALT, AST)の有意な改善が見られたnature.com,nature.com。免疫指標や栄養状態に大きな変化はなかったものの、腸内毒素(エンドトキシン)濃度の低下が確認されておりnature.com,nature.com、プロバイオティクスが 「腸‐肝‐肺軸」を介して全身状態を整える ことが示唆された。このように肺がん治療においては、 プロバイオティクス菌体の全身免疫賦活・抗炎症作用(カテゴリー1) および代謝産物による支持療法的効果(カテゴリー3) が期待される。今後、特に免疫療法との相乗効果や、術後合併症の軽減(例:感染予防、腸内細菌叢維持)を目的とした研究が発展すると考えられる。
膵臓がんの治療への応用
膵臓がん(膵癌)はきわめて免疫抑制的な腫瘍微小環境を持ち、単独の免疫療法が奏効しにくいことで知られるnature.com,nature.com。この難攻不落の膵癌に対し、プロバイオティクスを組み合わせて腫瘍免疫を再活性化しようという試みがなされている。前臨床研究の代表例として、Zhuらのグループは膵癌モデルマウスにL. caseiとL. reuteriの2菌株混合物を経口投与し、その効果を詳細に検討したbmccancer.biomedcentral.com,bmccancer.biomedcentral.com。培養系では、この乳酸菌混合物がヒト膵癌細胞(BxPC-3など)の増殖・遊走・浸潤を有意に抑制し、同時にこれら腫瘍細胞と共培養したマクロファージのM2極性化(腫瘍促進型)を阻害してM1型への分化を促進したbmccancer.biomedcentral.com,bmccancer.biomedcentral.com。メカニズムとして、腫瘍細胞におけるTLR4(トール様受容体4)-MyD88経路の発現亢進が乳酸菌処理で抑えられ、それに伴い腫瘍細胞が誘導するM2マクロファージへの偏りが是正されたことが判明したbmccancer.biomedcentral.com,bmccancer.biomedcentral.com。実際、乳酸菌処理群ではマクロファージのiNOSやCD86(M1指標)の発現増加、Arg1やCD206(M2指標)の低下が顕著であったbmccancer.biomedcentral.com,bmccancer.biomedcentral.com。さらにマウス担癌モデル(BxPC-3移植腫瘍)でも、乳酸菌混合物投与群で腫瘍増殖が有意に抑制され、生体内でも腫瘍組織のTLR4発現低下とM1/M2バランスの是正が確認されたbmccancer.biomedcentral.com,bmccancer.biomedcentral.com。これらはプロバイオティクス菌体による免疫環境改変(カテゴリー1) が膵腫瘍にも有効であることを示すものである。
一方、プロバイオティクス由来分子(カテゴリー3)の直接的抗膵がん作用も報告されている。Kitaらは、L. caseiが産生する環状ペプチドの一種フェリクローム(鉄キレート化合物)に注目し、その抗腫瘍活性を検証したspandidos-publications.com,spandidos-publications.com。フェリクロームは元来乳酸菌が産生するサイデルフォア(鉄捕捉分子)だが、同グループの研究で大腸癌・胃癌細胞に対し5-FUやシスプラチンを凌ぐ増殖抑制効果 を示すことが判明していたspandidos-publications.com,spandidos-publications.com。膵がん細胞(5-FU耐性株を含む)に対してもフェリクロームは濃度依存的な細胞増殖抑制とアポトーシス誘導を示し、マウス皮下腫瘍モデルにおいても腫瘍成長を有意に抑えたspandidos-publications.com,spandidos-publications.com。分子機序的には、フェリクローム処理により腫瘍細胞内でp53経路が活性化し、DNA断片化やPARPタンパクの断裂が引き起こされる(アポトーシスの指標)ことが確認されているspandidos-publications.com,spandidos-publications.com。以上より、乳酸菌の分泌するポストバイオティクス分子を創薬的に利用すれば、膵臓がんの新たな治療薬となり得る可能性が示された。
さらにハイテクなアプローチとして、Hanらはプロバイオティクスをドラッグデリバリーシステム化する研究を行ったnature.com,nature.com。彼らはL. rhamnosus GGにガリウムを含むポリフェノールネットワーク被膜を装着し(LGG@Ga-polyと命名)、これを膵がんモデルマウスに経口投与したnature.com,nature.com。その結果、LGG@Ga-polyは腫瘍組織に選択的に集積し、腫瘍内のProteobacteria(腫瘍促進的細菌)をガリウム作用で選択的に撲滅したnature.com,nature.com。ガリウムは鉄代謝を妨げ細菌呼吸を阻害するため、腫瘍内で増殖していたグラム陰性菌のみを排除し、乳酸菌自体は定着して局所を占拠するという都合の良い結果が得られたnature.com,nature.com。その影響で、腫瘍細胞上のTLR(特にTLR4)の刺激が減り、腫瘍細胞におけるPD-L1発現とIL-1β産生が低下、さらに骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)やM2マクロファージが減少し、腫瘍浸潤CTLが著増するという劇的な免疫環境の変化が起きたnature.com,nature.com。その結果、LGG@Ga-poly単独でも膵腫瘍の増殖を明らかに抑制し、抗PD-1抗体との併用では相乗的に腫瘍縮小と生存延長効果を示したnature.com,nature.com。この研究は、プロバイオティクスを「腫瘍内在住のマイクロバイオームを改変するツール」として利用する新境地を切り拓いたと言える。カテゴリー的には菌体作用(1)と分泌分子作用(3)の複合だが、特筆すべきはプロバイオティクスを担体として薬剤(金属)を送り届けた点である。将来的に、抗がん物質を産生するよう遺伝子改変した乳酸菌(あるいはそのEV)を用いれば、膵がんのような難治がんでも局所で高濃度の薬剤効果を発揮させることができるかもしれないfrontiersin.org,frontiersin.org。
血液がんの治療への応用
白血病・リンパ腫など血液がんにおけるプロバイオティクスの直接的治療効果に関するデータは、固形がんと比べると少ない。しかし、いくつか興味深い前臨床的報告がある。ひとつは乳酸菌由来物質による白血病細胞のアポトーシス増強である。Iyerらの研究では、L. reuteriのプロバイオティクス投与がヒト慢性骨髄性白血病細胞に対するTNF-α誘導アポトーシスを促進することが示されたtandfonline.com。具体的には、L. reuteri処理群で白血病細胞内のNF-κBおよびMAPK経路の活性化が抑えられ、TNF-αによる細胞死シグナルが増幅されたというtandfonline.com。この現象は、おそらく乳酸菌が分泌する低分子代謝産物または細胞表層成分が白血病細胞のシグナル伝達に影響し、アポトーシス抵抗性を低減したためと推定される(カテゴリー3の作用)。また別の研究では、ケフィア由来のプロバイオティクス発酵産物が多剤耐性白血病細胞にアポトーシスを誘導したとの報告もあり、乳酸菌系代謝産物の抗腫瘍活性は血液腫瘍にも及ぶ可能性があるpmc.ncbi.nlm.nih.gov,sciencedirect.com。
血液がん患者の治療に関連して重要なのは、化学療法に伴う重篤な副作用(特に骨髄抑制や感染)への対処である。プロバイオティクスには、腸管から免疫系を刺激して造血回復を促進する作用も示唆されている。例えば、プロバイオティクス乳酸菌株の一部はシクロホスファミド投与マウスの白血球減少を緩和し、好中球減少期間の感染リスクを下げたとのデータがあるsciencedirect.com。これはカテゴリー1の観点から腸内免疫刺激で骨髄機能をサポートしたものと考えられる。また、前述の通り酪酸など腸内細菌由来の代謝物は造血幹細胞ニッチに作用しうるため、プロバイオティクス投与により抗がん剤の骨髄毒性軽減や白血病の休眠細胞維持に影響を与える可能性も議論されているmdpi.com。一方、リンパ腫領域では、プロバイオティクス自体が直接腫瘍減少させるというよりは、感染予防や支持療法としての役割が期待されている。重度免疫不全状態のリンパ腫患者では、無菌食とともにLactobacillus含有の栄養療法を行うことで感染症発生を防げるかを検証する臨床試験が進行中であるmdpi.com。このように、血液がんの治療におけるプロバイオティクスの位置づけは、抗腫瘍効果の直接発揮というよりは、治療関連合併症の軽減と免疫賦活に重きが置かれている。しかし、前述のような菌由来抗腫瘍物質を利用すれば、白血病細胞やリンパ腫細胞に対する分子標的治療の一環として応用できる可能性もあり、今後の基礎研究に期待したい。
考察と今後の展望
以上の文献レビューから、Lactobacillus属プロバイオティクスの多菌株製剤はがん予防およびがん治療補助において多角的に有益な作用を持つことが示唆された。がん予防段階では、効果の主因は菌体そのものが腸内環境を整え炎症を抑制する作用(カテゴリー1)と、菌が産生する代謝物質(カテゴリー3)による上皮保護・発がん因子解毒作用である場合が多い pmc.ncbi.nlm.nih.gov,gutmicrobiotaforhealth.com。 特に大腸がんや乳がんでは、 プロバイオティクスによる腸内フローラ酵素活性の低減 や 抗炎症効果 が発がんリスク低下に直結するpmc.ncbi.nlm.nih.gov,gutmicrobiotaforhealth.com。一方、治療段階では、生菌が腫瘍局所で免疫応答を活性化し直接がん細胞を傷害する作用(カテゴリー1) と、 菌由来のポストバイオティクス分子ががん細胞の増殖経路を阻害する作用(カテゴリー3) の双方が重要となるjgo.amegroups.org,spandidos-publications.com。例えば膵臓がんでは、生菌投与により腫瘍関連マクロファージをM1型に誘導し免疫療法の効果を高める一方でbmccancer.biomedcentral.com,nature.com、菌が作るフェリクロームのような分子を薬剤として利用しがん細胞のp53経路を活性化するといったアプローチも取れるspandidos-publications.com,spandidos-publications.com。
また、新興のメカニズムである菌由来EV(カテゴリー2)については、安全に生菌の有用成分だけを届ける点で魅力的である。現時点で抗腫瘍効果を示した乳酸菌EVの報告は限られるものの、少なくともL. rhamnosus由来EVが大腸がん細胞増殖を抑制することが示されておりijm.tums.ac.ir、EV内部の活性分子(タンパク質やsmall RNA)がどのように宿主細胞に作用するか解明が進めば、将来的にEVワクチンとして臨床応用する道が開けるだろう。EVはナノサイズで組織浸透性に優れ、また生菌投与のリスク(菌血症など)を回避できる利点があるijm.tums.ac.ir。一方で、EV研究は細胞株レベルが中心でin vivoでの安定性・送達効率など課題も多く、実用化にはさらなる研究が必要である。
複数菌株プロバイオティクスの利点としては、相乗効果と広域スペクトルな作用が挙げられる。単一株では及ばない菌叢全体への影響(多様な酵素活性の網羅的低減や、多面的な免疫刺激)が期待できる半面、作用メカニズムの解明は複雑になる。今後は、どの菌株組み合わせがどのがん種・病期に最適かを検討する必要があるだろう。また、患者の腸内フローラ個別性にも留意すべきである。元来その人に存在しない菌株は定着しにくい可能性があり、プレバイオティクス(難消化性糖類など)との併用や、患者ごとにカスタマイズした菌株選択(パーソナライズドプロバイオティクス)が求められるかもしれないmdpi.com,frontiersin.org。
安全性の観点では、プロバイオティクスは概ねGRAS/QPS(安全とみなされる微生物)に分類されるもののpmc.ncbi.nlm.nih.gov、重篤な免疫低下患者では投与に慎重さが求められるpmc.ncbi.nlm.nih.gov。このため、死菌体(不活化プロバイオティクス) や 精製代謝産物(ポストバイオティクス) を使った治療開発も重要であるspandidos-publications.com。実際、酪酸など短鎖脂肪酸製剤、あるいはプロバイオティクス発酵産物を濃縮した製剤が補助療法として試験されている。mdpi.com,sciencedirect.com
最後に、プロバイオティクス研究の今後の展望として、従来の抗がん剤や免疫療法との統合が挙げられる。近年の知見は、腫瘍と微生物叢・免疫系の三者が密接に絡み合うことを示しているfrontiersin.org。したがって、腫瘍そのものを狙う治療と並行して腫瘍の生育環境(微生物叢と免疫)を整えるアプローチは合理的である。Lactobacillus属多菌株プロバイオティクスは、そのようなホリスティックながん治療戦略の一翼を担う有力なツールになり得る。今後さらに分子メカニズムの解明と大規模臨床試験による検証が進めば、がん予防・治療におけるプロバイオティクス活用は新たなエビデンスに基づく医療として確立されていくだろう。
比較まとめ表(がん種ごとのプロバイオティクス効果の概要)
がん種 | 予防効果の主な作用機序 (代表的知見・モデル) |
治療効果の主な作用機序 (代表的知見・モデル) |
---|---|---|
大腸がん | 腸内フローラ改善と炎症抑制により発がんリスク低減。 ・混合乳酸菌投与で腸内有害酵素活性低下pmc.ncbi.nlm.nih.gov、炎症性サイトカイン低減gutmicrobiotaforhealth.com(マウスモデル) ・L. reuteri由来ヒスタミンが炎症関連腫瘍を抑制gutmicrobiotaforhealth.com,gutmicrobiotaforhealth.com(AOM/DSS誘導マウス) | 免疫賦活と腫瘍細胞増殖抑制により治療効果補助。 ・乳酸菌混合物投与で腫瘍縮小・CD8⁺T細胞浸潤増加jgo.amegroups.org,jgo.amegroups.org(マウス移植腫瘍) ・L. rhamnosus由来EVが大腸がん細胞増殖抑制ijm.tums.ac.ir(in vitro) |
乳がん | 腸内代謝と全身免疫の調整による発症リスク低減。 ・L. caseiシロタ株飲用で乳がん発生抑制示唆frontiersin.org(ヒト疫学) ・乳酸菌投与で乳房初期腫瘍形成抑制frontiersin.org、アポトーシス感受性↑frontiersin.org(マウス) | 免疫活性化と内分泌環境改善による腫瘍抑制。 ・L. reuteri経口投与で腫瘍増殖抑制、T細胞活性化frontiersin.org,frontiersin.org(マウス) ・L. acidophilus投与でIL-10↑・IL-6↓かつ腫瘍縮小frontiersin.org(マウス) ※EV効果は未検証 |
肺がん | 腸‐肺軸を介した慢性炎症軽減と免疫監視強化。 ・腸内善玉菌維持で全身炎症低減し発がん抑制の可能性tandfonline.com(理論) ・直接的証拠は限定的(予防研究蓄積中) | 局所および全身免疫賦活による腫瘍増殖抑制。 ・L. rhamnosusエアロゾル吸入で肺腫瘍減少mdpi.com、IgA産生↑mdpi.com(マウス) ・プロバイオティクス併用で抗PD-1効果増強示唆tandfonline.com(患者データ解析) ・腸内ケアで肝機能・栄養状態改善nature.com(RCT) |
膵がん | 腸内菌叢の調整と慢性炎症緩和による発症予防。 ・Lactobacillus投与で膵炎抑制・発がん抑制pmc.ncbi.nlm.nih.gov(マウス) ・改変LGG投与で腫瘍内有害菌減少・予防効果nature.com(マウス) | 腫瘍微小環境の免疫再プログラム化+直接的腫瘍攻撃。 ・L. casei+L. reuteri投与で腫瘍縮小・M1マクロファージ誘導bmccancer.biomedcentral.com,bmccancer.biomedcentral.com(マウス) ・L. casei由来フェリクロームでp53経路活性化・アポトーシス誘導spandidos-publications.com(in vitro・マウス) ・LGG@Ga-polyで腫瘍内細菌除去→免疫チェックポイント阻害剤効果増強nature.com,nature.com(マウス) |
血液がん (白血病・リンパ腫等) | 腸内フローラ維持による白血病クローン出現抑制・リンパ腫発症リスク低減。 ・A-TマウスでL. johnsonii補充によりリンパ腫発生↓mdpi.com,mdpi.com ・白血病モデルで乳酸菌+プレバイオティクス投与により生存率改善mdpi.com,mdpi.com | 免疫機能の補助とアポトーシス感受性亢進による治療支援。 ・L. reuteriが白血病細胞のTNF-α誘導細胞死を増強tandfonline.com(in vitro) ・プロバイオティクスで化療後の好中球減少軽減報告sciencedirect.com(in vivo) ・感染予防目的の投与例あり(臨床試験進行中)mdpi.com |
※RCT: 無作為化比較試験、AOM/DSS: 発がん誘導剤アゾキシメタン+デキストラン硫酸ナトリウム(炎症促進)併用モデル、A-T: 毛細血管拡張性失調症モデルマウス(リンパ腫好発モデル)。
おわりに
Lactobacillus属を中心とする多菌株プロバイオティクスは、がんの予防と治療補助に多面的な有用性を示すことが、近年の研究で明らかになりつつある。腸内環境の改善や免疫系の調整といった従来から知られる作用に加え、菌由来エクソソームや特定代謝産物による新規の抗腫瘍メカニズムが次々と報告されている。本総説で述べたように、その効果はがん種によって様々であるが、共通して言えるのは「腫瘍の周囲環境を整える」ことである。プロバイオティクスは腫瘍細胞そのものを直接攻撃するだけでなく、腫瘍を取り巻く微生物相・免疫系・代謝環境を好転させ、結果的に発がんを抑えたり治療効果を高めたりする。nature.com,nature.com
もっとも、多くの知見はいまだ前臨床段階であり、ヒトにおける有効性・安全性を高いエビデンスレベルで示す必要がある。特にプロバイオティクス治療の最適な適応(がん種・病期・併用療法の種類など)や、投与する菌株・菌数・期間の標準化は今後の課題である。また、エンドトキシン血症のリスクがある重症患者や、逆にプロバイオティクス耐性菌叢を持つ患者への対応など、安全管理面のガイドライン整備も求められる。しかし、腫瘍生物学と微生物学の融合領域は急速に発展しており、「腫瘍を細菌で治す」 という100年前のアイデアが、現代の科学技術で現実味を帯びてきている。frontiersin.org,frontiersin.org
結論として、Lactobacillus属多菌株プロバイオティクスはがん予防と治療の双方で有望なアプローチであり、その作用は菌体・EV・分泌分子という複数経路によって支えられている。本領域の研究はまだ萌芽期にあるが、今後さらなる分子機序の解明と臨床検証が進めば、プロバイオティクスはがんに立ち向かう新たな「共治者」 として、従来の治療法を補完・強化する一翼を担うであろうmdpi.com,frontiersin.org。