はじめに (Introduction)
大腸癌・乳癌・肺癌は世界的に高い罹患率と死亡率を示す主要ながんであり、それぞれ消化器系・乳腺・呼吸器に発生します。近年、腸内細菌叢(マイクロバイオータ)の構成ががんの発生進展や治療反応に影響を与えることが注目され、善玉菌であるプロバイオティクスの補助療法的役割が研究されていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov,pmc.ncbi.nlm.nih.gov。プロバイオティクスは通常ヒトに有益な生きた微生物(乳酸桿菌(乳酸菌)やビフィズス菌、酵母など)であり、腸内環境の改善や免疫調節作用を通じて抗炎症・抗腫瘍効果を示す可能性がありますpmc.ncbi.nlm.nih.gov,pmc.ncbi.nlm.nih.gov。特に乳酸菌(Lactobacillus属など)や酪酸産生菌(Clostridium butyricumなどの嫌気性菌)は短鎖脂肪酸(SCFA)の一種である酪酸を産生し、抗炎症作用や上皮バリア機能維持を介して発がんリスクを低減すると考えられていますmdpi.com,mdpi.com。本稿では、過去5年間(主に2020~2024年)の英語論文に基づき、ライブ・プロバイオティクス(特に乳酸菌および酪酸産生菌)が大腸癌、乳癌、肺癌の治療に与える効果について、人および動物モデル研究のエビデンスを概説します。併せて、プロバイオティクスの作用メカニズム(免疫調節、抗炎症、腫瘍増殖抑制など)や安全性にも触れ、最終的にこれらの知見に基づく多菌株プロバイオティクス混合製剤の理想的な組成案を提案します。
方法 (Methods)
本レビューは文献レビューの手法で行いました。PubMedやGoogle Scholarを用い、2020年から2024年に出版された査読付き英文論文を検索しました。検索キーワードには「probiotics」「Lactobacillus」「butyrate-producing bacteria」「colorectal cancer」「breast cancer」「lung cancer」「human trial」「mouse model」等を使用し、これらのAND/OR検索を組み合わせました。特に乳酸菌(Lactobacillus, Bifidobacteriumなど)および酪酸産生菌(Clostridium butyricum, Faecalibacterium prausnitzii等)に焦点を当て、腫瘍縮小効果、免疫応答の変化、治療成績や副作用への影響に関するエビデンスを抽出しました。選択基準として、ヒト臨床研究(ランダム化比較試験や前向き研究)および動物実験研究で、プロバイオティクス生菌の投与が大腸癌・乳癌・肺癌の治療成績やバイオマーカーに与える効果を報告したものを含めました。レビュー論文やメタアナリシスについては参考情報源として用い、必要に応じて一次研究のデータを確認しました。情報抽出後、各研究のデザイン(対象:患者 vs. モデル動物、介入菌株、評価項目)と主な知見を整理し、癌種ごとに結果を総括しました。最後に、収集した知見を総合的に考察し、エビデンスに基づくプロバイオティクス混合処方の提案を行いました。
結果 (Results)
大腸癌に対するプロバイオティクスの効果
大腸癌(結腸・直腸癌)に関しては、プロバイオティクス補充による術後合併症の軽減や炎症抑制が報告されています。韓国で行われたランダム化二重盲検試験(POSTCARE試験)では、結腸癌切除術を受けた患者に対し、ビフィズス菌と乳酸菌3菌株の混合プロバイオティクスを術前後4週間投与しましたpmc.ncbi.nlm.nih.gov,pmc.ncbi.nlm.nih.gov。その結果、術後の有害事象発生率がプラセボ群より有意に低下し(Clavien-Dindo分類グレード≧2の術後合併症:プロバイオティクス群6.0% vs プラセボ群28.5%、p=0.024)pmc.ncbi.nlm.nih.gov、特に創部感染や縫合不全などの発生が抑制されました。さらに同試験では、腸機能障害(前方切除症候群)の指標である排ガスコントロールがプロバイオティクス群で有意に改善し(改善を示した患者割合31% vs 10%、p=0.033)pmc.ncbi.nlm.nih.gov、腸管バリア指標のゾヌリン濃度も介入群で有意に低下しましたpmc.ncbi.nlm.nih.gov,pmc.ncbi.nlm.nih.gov。これらから、術周期におけるプロバイオティクス投与は腸内環境を整え炎症反応を抑制することで、術後回復を促進する可能性が示唆されます。
前臨床研究においても、プロバイオティクスは大腸発がんの進行抑制に寄与するエビデンスがあります。例えば、酪酸産生菌であるClostridium butyricumをAOM/DSS誘発性大腸癌モデルマウスに投与した研究では、腫瘍発生率と総腫瘍体積の有意な低下、腫瘍組織におけるアポトーシス細胞増加が観察されましたatm.amegroups.org,atm.amegroups.org。同時に炎症性サイトカインIL-6の低下と抗炎症サイトカインIL-10の上昇が認められ、腫瘍部位でのNF-κBシグナル伝達の抑制が確認されていますatm.amegroups.org。これはC. butyricumが腸内細菌叢の組成を改善し(有益菌の増加と炎症性菌の減少)つつ、MyD88-NF-κB経路を抑制することで炎症性発がんを抑えるメカニズムを示唆していますatm.amegroups.org,atm.amegroups.org。また、乳酸菌による抗腫瘍作用の一例として、Lactobacillus plantarumが産生する神経伝達物質GABAに注目した研究があります。ある培養細胞実験では、GABA産生能をもつL. plantarum株が5-FU耐性の大腸癌細胞の増殖・遊走を抑制し、GABA-受容体経路を介して抗腫瘍効果を示しましたpmc.ncbi.nlm.nih.gov,pmc.ncbi.nlm.nih.gov。このように、乳酸菌は代謝産物(例えばGABAや乳酸)の作用によって大腸癌細胞の悪性形質を抑える可能性があります。
以上のように、大腸癌領域ではプロバイオティクス投与による炎症制御と腸内環境改善が確認されており、術後合併症軽減pmc.ncbi.nlm.nih.govや腫瘍増殖抑制atm.amegroups.orgといった有望な結果が得られています。但し、ヒト臨床研究では効果の大きさにまだ限界がありpmc.ncbi.nlm.nih.gov、単独治療ではなく化学療法・外科治療の補助としての位置づけです。今後さらなる大規模試験で、有効な菌株組み合わせや投与期間の最適化が検証されることが望まれます。
乳癌に対するプロバイオティクスの効果
乳癌については、プロバイオティクス補充による慢性炎症の緩和や代謝改善、および治療関連症状の軽減に関する報告が増えています。複数のランダム化比較試験 (RCT) を対象にした2023年のシステマティックレビューpmc.ncbi.nlm.nih.govでは、乳癌患者・サバイバーへのプロバイオティクス投与が腫瘍悪液質や炎症マーカーに及ぼす影響が分析されています。その結果、Lactobacillus属単独あるいはLactobacillus + Bifidobacteriumの混合プロバイオティクス(しばしばプレバイオティクス併用)を8~10週間摂取することで、炎症性サイトカインTNF-αの有意な減少や生活の質(QOL)の改善が報告されましたpmc.ncbi.nlm.nih.gov。特に、乳癌術後のリンパ浮腫患者を対象とした試験では、シンバイオティクス(乳酸菌・ビフィズス菌+フラクトオリゴ糖)によりリンパ浮腫のむくみ軽減とQOL向上が認められていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。また別のRCTでは、プロバイオティクスとプレバイオティクスを含むカプセルを10週間服用することで血中の炎症指標CRPやTNF-αが有意に低下し、インスリン感受性を高めるアディポネクチンが上昇しましたpmc.ncbi.nlm.nih.gov。これらの知見は、プロバイオティクスが全身性の炎症状態や代謝状態を改善し、乳癌患者の予後因子(肥満・慢性炎症)に好影響を及ぼす可能性を示しています。
プロバイオティクスは化学療法の副作用軽減にも寄与し得ます。中国で行われたRCTでは、乳癌のドセタキセル化学療法中の患者に多菌株プロバイオティクスを投与し、化学療法誘発性認知機能障害(いわゆる「ケモブレイン」)の軽減が報告されましたpmc.ncbi.nlm.nih.gov。また別の試験では、乳癌患者におけるドセタキセル療法に伴う体重増加をプロバイオティクス投与で予防できたとされ、プラセボ群に比べ治療後の肥満リスクが低減しましたpmc.ncbi.nlm.nih.gov。肥満は乳癌の再発リスク因子であるため、このような代謝副作用の抑制は長期予後の観点から重要ですpmc.ncbi.nlm.nih.gov。
動物モデルからは、乳酸菌が乳腺腫瘍の発生を抑制する直接的エビデンスも得られています。例えば、Lactobacillus reuteriをHer2遺伝子変異乳癌モデルマウスに経口投与した研究では、腫瘍の発生・成長が有意に抑えられましたmdpi.com。この抗腫瘍効果は、プロバイオティクス投与によって誘導されたCD4^+CD25^+リンパ球(制御性T細胞を含む)が腫瘍免疫環境を整えたことに起因するとされていますmdpi.com。またLactobacillus acidophilusをマウスに経口投与した実験では、腫瘍増殖の減速とIL-12産生亢進(Th1型免疫の促進)が観察されましたmdpi.com。さらに、乳酸菌発酵乳の摂取により乳腺組織内のIgA産生や抗炎症サイトカインIL-10が増加したとの報告もありますmdpi.com。これらは乳酸菌が宿主免疫を介して発癌を抑制し得ることを示唆しています。加えて、代表的な酪酸産生菌であるFaecalibacterium prausnitziiについて、試験管内研究でその上清が乳癌細胞(MCF-7)の増殖を抑制し、IL-6/STAT3経路を遮断することが示されましたmdpi.com。F. prausnitziiはヒト腸内で高濃度の酪酸と抗炎症物質を産生する「次世代プロバイオティクス」として注目されており、乳癌患者では健常人に比べ腸内で著しく減少することが報告されていますmdpi.com。この菌の機能からも、酪酸など微生物代謝産物によるエピジェネティック制御(例えばヒストン脱アセチル化酵素の阻害を介した癌抑制遺伝子の発現変化)が乳癌進行を左右し得ると考えられますmdpi.com,mdpi.com。
以上のように、乳癌領域ではプロバイオティクスが炎症軽減と代謝調整を通じて補助療法として有益である可能性が示唆されます。ヒト臨床試験ではQOL向上や炎症マーカー低減など一部有意差が確認されておりpmc.ncbi.nlm.nih.gov、特にシンバイオティクス(プロバイオティクス+プレバイオティクス)の併用が効果を高めるとの指摘がありますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。もっとも、現時点で乳癌患者を対象としたRCTは件数が限られておりpmc.ncbi.nlm.nih.gov、菌株や投与条件によって結果がばらつくため、更なるエビデンスの集積が必要です。
肺癌に対するプロバイオティクスの効果
肺癌においても、近年プロバイオティクスの補助療法効果に関する知見が蓄積しつつあります。他の癌種と異なり、肺は直接の腸内細菌叢との接点がないものの、腸-肺軸と呼ばれる生理的連関を通じて全身免疫や炎症反応への影響が考えられますfrontiersin.org。実際、肺癌患者では治療中に腸内細菌叢が乱れやすく、その補正が治療アウトカムに寄与する可能性があります。
ヒト臨床研究では、プロバイオティクス併用による肺癌患者のQOL改善や副作用軽減が示されています。中国で実施された二重盲検プラセボ対照RCT(対象110例)では、化学療法(白金製剤併用療法)開始と同時に複合プロバイオティクスを2サイクル投与しました。その結果、EORTC QLQ-C30アンケートで評価した全体的QOLスコアが有意に向上し、身体機能や役割機能のスコアも改善しましたpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。加えて、化学療法による消化器症状(悪心嘔吐、食欲不振、便秘、下痢)の発生率がプロバイオティクス群で著明に低下しました(例えば悪心・嘔吐の発生率:プロバイオティクス群0% vs 対照群71.4%、下痢:7.14% vs 42.86%、p<0.001)pubmed.ncbi.nlm.nih.gov,pubmed.ncbi.nlm.nih.gov。結論として、本試験では「プロバイオティクス補充は肺癌患者の生活の質を改善し、化学療法に伴う消化器毒性を軽減し得る」と報告されていますpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。また別の研究では、進行肺癌患者に対する経口栄養剤+L. caseiシロタ株投与の効果を検証し、肝機能障害の軽減や腸内毒素(エンドトキシン)濃度の低下を認めていますnature.com,nature.com。21日間の介入後、プロバイオティクス群では対照群に比べ肝酵素(AST, ALT)の上昇が有意に抑制されnature.com、血中エンドトキシン濃度も有意に低下しましたnature.com。腸内フローラ解析では、有益菌である乳酸桿菌やビフィズス菌の菌数が増加し、有害な腸内細菌(大腸菌や腸球菌)の占有率が減少していますnature.com。これらの所見は、腫瘍患者における腸管粘膜のバリア機能維持や全身性炎症の抑制につながるものであり、プロバイオティクスの支持療法としての有用性を裏付けています。
さらに、免疫療法との併用効果に関する報告も注目されています。免疫チェックポイント阻害剤(ICI)による治療効果は腸内細菌叢と関連するとの指摘があり、抗生物質で腸内細菌を損なうと免疫療法効果が低下することが知られますfrontiersin.org,frontiersin.org。この文脈で行われたマウス研究では、抗PD-1抗体による治療にLactobacillus rhamnosus Probio-M9というプロバイオティクス株を併用すると、抗腫瘍効果(腫瘍増殖抑制)が有意に増強されましたfrontiersin.org,frontiersin.org。特に、事前に抗生物質で腸内細菌叢を乱したマウスにおいて、Probio-M9投与群は投与なし群に比べて腫瘍縮小率が明らかに高く(ほとんどの時点でp<0.05)frontiersin.org、これはプロバイオティクスにより多様性の低下した腸内細菌叢が効果的に回復されたことに伴う現象でしたfrontiersin.org。実際、Probio-M9併用群では腸内の有益菌(Bifidobacterium pseudolongumやParabacteroides distasonis等)の相対的豊富度が有意に増加し、代謝経路も炭水化物分解やビタミン・アミノ酸合成系が強化されていましたfrontiersin.org。以上から、プロバイオティクスは腸内環境を整えることで免疫チェックポイント療法の効果を高め、抗腫瘍免疫を増強しうることが示唆されますfrontiersin.org。現在、特定のプロバイオティクス株(例えばビフィズス菌やAkkermansia muciniphila)がICI治療成績の良否に関与するエビデンスも蓄積しておりmdpi.com,mdpi.com、これらを治療に応用する研究が進められています。
以上の結果より、肺癌治療においてプロバイオティクスは化学療法・免疫療法の支持療法として有望であり、患者のQOL維持や治療関連毒性軽減に寄与する可能性があります。ただし、肺癌領域の臨床研究は他癌種以上に少なく、菌種や投与時期による効果の違いなど未解明の点も多いです。今後は免疫療法との相乗効果も含め、人を対象としたさらなる検証が望まれます。
考察 (Discussion)
本レビューで取り上げた研究から、プロバイオティクス(特に乳酸菌と酪酸産生菌)は大腸癌・乳癌・肺癌の補助療法として多角的な有益効果をもたらすことが示唆されました。主要な効果メカニズムとして以下が考えられます。
- 腸内細菌叢の是正とバリア機能改善: プロバイオティクス投与により腸内の有益菌(Lactobacillus属、Bifidobacterium属など)が増え、有害菌や潜在的病原菌(大腸菌や嫌気性菌など)が減少することで、腸管粘膜の恒常性維持に寄与しますnature.com。例えば大腸癌術後のRCTではプロバイオティクス群で血中ゾヌリン低下(腸管透過性の改善)が確認されましたpmc.ncbi.nlm.nih.gov,pmc.ncbi.nlm.nih.gov。腸管バリア機能が改善すればエンドトキシン血症の予防nature.comや術後感染リスクの低減につながりpmc.ncbi.nlm.nih.gov、患者の回復力を高めると考えられます。
- 免疫調節・抗炎症作用: 乳酸菌や酪酸産生菌はT細胞、NK細胞、樹状細胞など免疫細胞の機能を調節し、慢性的な腫瘍促進性炎症を緩和しますmdpi.com,mdpi.com。酪酸などの短鎖脂肪酸はGPR43/GPR109A受容体を介した抗炎症シグナルや、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害による制御性T細胞の分化促進作用があり、腫瘍微小環境の免疫寛容状態を変化させますmdpi.com,mdpi.com。実際にL. caseiやL. reuteriはマウスで炎症性サイトカインTNF-αやIL-6を低下させ、逆に抗炎症性サイトカインIL-10や腫瘍免疫に重要なIL-12を増加させたと報告されていますmdpi.com,atm.amegroups.org。これらはNF-κBやJAK/STAT経路といった炎症経路の抑制を反映し、腫瘍細胞のアポトーシス誘導・増殖抑制に繋がりますatm.amegroups.org。
- 抗腫瘍直作用: ある種のプロバイオティクスは、代謝産物や表面分子を介して腫瘍細胞に直接作用し、増殖を抑えたりアポトーシスを誘導したりします。乳酸菌が産生する**短鎖脂肪酸(酪酸・プロピオン酸)はがん細胞増殖抑制に寄与し、例えばプロピオン酸は乳癌細胞株の細胞周期をG0/G1期で停止させアポトーシスを誘導したとの報告がありますmdpi.com。またL. plantarum由来のエクソポリサッカライド(EPS)は腸管上皮のTLR4受容体に結合してNF-κB経路を阻害し、炎症刺激によるCOX-2やIL-8の発現を低下させることが示されていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov,pmc.ncbi.nlm.nih.gov。さらにL. reuteriが産生するリシン代謝物の3-ヒドロキシプロピオンアルデヒド(ルテリン)**は、大腸癌細胞株の増殖抑制効果が報告されるなどcell.com、プロバイオティクス起源の抗腫瘍物質にも関心が高まっています。
- 治療効果の増強: プロバイオティクスは補助療法として、既存の化学療法や免疫療法の効果を高め、副作用を軽減する役割も期待されます。例えば本レビューで示した肺癌患者の試験では、プロバイオティクス併用により抗がん剤による消化器毒性が大幅に減少しましたpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。これは腸内細菌叢の安定化により薬剤による粘膜障害や二次感染が抑えられたためと推察されます。また免疫療法に関しては、プロバイオティクス投与によって抗PD-1抗体治療の奏効率が上がったとの動物研究結果がありfrontiersin.org,frontiersin.org、メカニズムとしてはビフィズス菌やAkkermansia属の増加による腫瘍特異的なCD8^+T細胞誘導や樹状細胞活性化が関与しますmdpi.com,mdpi.com。このように、プロバイオティクスは治療と相乗的に作用してホストの抗腫瘍応答を高める可能性があります。
以上を踏まえると、ライブプロバイオティクスの活用は大腸癌・乳癌・肺癌の包括的治療において多面的メリットをもたらし得ます。一方で留意すべき点もあります。まず、重篤な免疫不全患者や重症患者では、プロバイオティクス由来の菌血症や感染症リスクがゼロではないため、安全性に配慮した選択(安全性の高い株の使用、菌量管理)が必要ですpmc.ncbi.nlm.nih.gov。また効果は菌株特異的であり、「すべてのプロバイオティクスが同等に効く」わけではありませんmdpi.com,mdpi.com。実際、本レビューで扱った研究間でも用いた菌の種類や組み合わせが異なり、結果のばらつきが見られました。従って、どの菌株を選ぶか、シングル株か混合株か、投与期間・タイミングなど最適戦略を更に詰める必要があります。例えば乳癌患者ではプロバイオティクス+プレバイオティクスのシンバイオティクスが有望と示唆されましたがpmc.ncbi.nlm.nih.gov、これが他癌種にも当てはまるかは今後の研究課題です。
最後に、プロバイオティクス研究は比較的歴史が浅く、過去5年でようやくヒト試験の成果が現れ始めた段階です。大規模臨床試験のエビデンスはまだ限定的であり、「補完代替医療」的な位置づけから「エビデンスに基づく補助療法」へ昇華させるためには、更なる質の高い研究が求められます。本レビューの知見は、今後のプロバイオティクス活用戦略の検討にあたり有用な手がかりを提供するものと考えます。
結論 (Conclusion)
近年の研究から、ライブプロバイオティクスは炎症抑制・免疫調節・腸内環境改善などを通じて大腸癌・乳癌・肺癌の治療を多面的に支援し得ることが明らかになりました。ヒト臨床では術後合併症の軽減pmc.ncbi.nlm.nih.gov、QOLの改善pubmed.ncbi.nlm.nih.gov、副作用軽減pubmed.ncbi.nlm.nih.gov、炎症マーカー低下pmc.ncbi.nlm.nih.govといった有益な結果が報告され、動物モデルでも腫瘍増殖抑制や免疫療法効果増強が示されていますfrontiersin.org,frontiersin.org。以上のエビデンスを踏まえ、各癌種に有効と考えられる菌株を組み合わせたマルチ菌株プロバイオティクスを提案するとすれば、例えば以下のような構成が考えられます。
- 乳酸菌系: 腸管免疫を調整し抗腫瘍効果を示す乳酸菌として、Lactobacillus rhamnosus GG(または同種の有望株Probio-M9)やLactobacillus caseiシロタ株を含める。L. rhamnosus系は抗PD-1治療効果を高めた報告がありfrontiersin.org、L. caseiシロタ株は肺癌化学療法患者で肝機能保護効果が示されているnature.com。両者は安全性プロファイルも良好です。
- ビフィズス菌系: Bifidobacterium longumやB. breveなどのビフィズス菌は腸内フローラ改善と免疫活性化に寄与します。ビフィズス菌属はマウスでインターフェロンγ産生やCD8^+T細胞誘導を介し抗PD-L1療法を促進したことが報告されmdpi.com、ヒトRCTでも混合プロバイオティクス中に含めることで炎症低減効果に関与しましたpmc.ncbi.nlm.nih.gov。癌患者の腸内で減少しがちなため、意図的な補充が有用と考えられます。
- 酪酸産生菌系: Clostridium butyricum(酪酸菌)を加えることで、酪酸による抗炎症・上皮保護効果が期待できます。C. butyricumは大腸癌モデルで腫瘍進行抑制と炎症抑制を示しatm.amegroups.org、既に市販のプロバイオティクス製剤(MIYAIRI株など)も存在します。同様に酪酸産生能のある次世代菌としてFaecalibacterium prausnitziiも有望ですが、極度の嫌気性菌のため製剤化には技術的課題がありますmdpi.com。現実的にはC. butyricumなど培養しやすい菌で代替するのが良いでしょう。
- その他補助的菌種: 必須ではありませんが、Lactobacillus reuteriのように抗炎症代謝物を産生する菌や、酵母のSaccharomyces boulardii(腸炎予防効果で知られる)が補助的に加わると、整腸作用や病原菌排除効果がさらに高まる可能性がありますpmc.ncbi.nlm.nih.gov,pmc.ncbi.nlm.nih.gov。ただし本レビュー範囲ではこれらの癌直接効果エビデンスは限定的であるため、主要3種(乳酸菌・ビフィズス菌・酪酸菌)を中心に据えるべきです。
上述のプロバイオティクス混合処方は、大腸癌・乳癌・肺癌という消化管起源・非消化管起源の別を超えて、全身の免疫環境を整え治療を支援することを狙いとしています。その有効性を最大化するには、患者の治療スケジュール(手術前後、化学療法中、免疫療法中など)に応じて投与タイミングを最適化し、十分量の生菌を一定期間継続して届けることが重要です。幸いプロバイオティクスはGRAS/QPS認定され安全性は高いとされていますpmc.ncbi.nlm.nih.govが、効果検証と安全確認のためさらなる臨床試験が必要です。本レビューの結論として、エビデンスに基づき選定した複数の有用菌株を組み合わせることで、プロバイオティクスは癌治療の有力な補助となり得ることが示唆されます。今後、提案したような多菌株プロバイオティクス製剤の臨床応用に向けた研究が進み、エビデンスが蓄積されることを期待します。
References:
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